近年、WEBを活用したマーケティング戦略の普及により、製造業においてもコンテンツマーケティングの導入が重要視されています。製造業とコンテンツマーケティングは非常に相性の良い関係といわれる一方で、適切なターゲット選定や自社技術のアピールポイントを見失うと、成果をあげることは困難です。
本記事では、コンテンツマーケティングを導入し、大きな成果をあげた製造業企業の事例をご紹介するとともに、そこから見える成功へのポイントを解説します。
製造業のマーケティングの現状
さまざまなマーケティング活動が存在する昨今ですが、製造業におけるマーケティングの現状とはどのようなものなのでしょうか。
リソース不足
製造業では、マーケティングに精通した人材が社内にいない場合も多く、新しい施策を行うためのリソースが常に不足しています。マーケティング専門の部署をつくること自体が難しく、ノウハウを持たない社員が他業務と並行して取り組んでいることも珍しくありません。
新規顧客獲得が困難
BtoB製造業では、特定のメーカーからの下請けに頼る経営体質が多く、新規顧客の開拓に踏み込めないのが現状です。また、特定の営業担当者がいない場合もあり、他業務との兼任による営業活動では、顧客開拓に注力することは難しいといえます。
商談の場が対面からオンラインへと移行している
製造業では、これまで対面営業や人的な繋がりから仕事の受発注を決定してきた経緯があります。しかし、コロナ禍の影響で状況が大きく変わり、WEBを活用したマーケティングは今や製造業にとっても不可欠な存在です。
アフターコロナと呼ばれる現在においても、オンラインによる商談は欠かせないものとして根付いており、今後もコンテンツマーケティングを中心とした各社のWEB活用が、生き残りを左右する重要なファクターとなります。
コンテンツマーケティングとは?
コンテンツマーケティングとは、企業のマーケティング活動のうち、記事(文章)、動画、音声、VRといったコンテンツを活用してマーケティング活動を行うこといいます。
さらにコンテンツを発信する場所は、自社ホームページ、オウンドメディア(自社が運営するニュースサイト)、SNS、メール、パンフレット、、、などさまざまな媒体で発信します。
どの媒体を選択し、どのようにリソースを配分をするかがコンテンツマーケティング戦略のキモになります。
なぜ製造業はコンテンツマーケティングを検討するべきなのか?
BtoBが主流の製造業においては、ユーザーが購入を検討する際、「企業」として意思決定を行うため、成約にいたるプロセスは長期的かつ複雑です。
また、意思決定に関わる人間のなかには設計・開発など、上流部門の担当者も多く、より専門性の高い技術情報が求められます。
コンテンツマーケティングは製造業のマーケティングのなかでも特に効果的な手法
近年、製造業においてもコンテンツマーケティングをはじめとするWEB施策に注目が集まっています。ユーザーにとって有益な自社情報を開示し、「問い合わせ」や「購買」の獲得につなげることができるコンテンツマーケティングは、下請け中心の中小製造業にとっても非常に相性の良い施策です。
製造業のように予算金額が大きい業界では、顧客の意思決定に時間を要するため、こうしたWEBを通じた見込み顧客への長期的アプローチは非常に効果的です。
自社製品の複雑な構造や効果をコンテンツを通じて簡潔に伝えることで、顧客の購買意欲を徐々に高めることができます。 また、高品質なコンテンツ提供により、自社を業界の専門家として認識させ、企業の信頼性を構築することが可能です。
このように、製造業にとってコンテンツマーケティングはうってつけの施策といえますが、WEBに対する苦手意識などから、多くの企業が導入に踏み込めていないのが現状です。
コンテンツマーケティングによるメリット
コンテンツマーケティングによって有益な情報を発信することで、顧客の信頼を築くことができるのが製造業にとっての大きなメリットです。
さらに、コンテンツを通じてユーザーが抱える課題の解決策を提供し、興味を持ったユーザーをリードに変えていきます。
長年、新規顧客開拓が課題といわれている製造業にとって、WEB施策はハードルが高く敬遠されがちですが、このように時間をかけて自社技術を伝えるなど、実は相性の良い側面をいくつも持っています。
製造業におすすめのコンテンツマーケティング施策
ここでは、製造業企業が導入することで成果につながりやすい施策をいくつかご紹介します。
WEB記事・WEBサイト
コンテンツマーケティングの中でも、最も一般的に用いられる施策です。新規ユーザーからのアクセス数を増やすために、キーワードを選定してSEO対策を施したWEB記事を作成します。
WEB記事やWEBサイトでは、記事構成を作成し、独自情報を含めることで、上位表示を狙います。製造業においてはキーワード選定が難しく、検索ボリュームの少ないロングテールキーワード(ニッチキーワード)をあえて使用することで、上位表示やリード獲得につながる場合もあります。
動画
主にYouTubeなどを使用したコンテンツ制作のことで、ユーザーに対して自社の技術や情報を視覚的に訴求できることが特徴です。
近年、製造業においてもYouTubeで自社技術や製品情報を配信する動きが活発化しています。製造業のように専門性の高い分野では、WEB記事だけではなく、動画解説を併用してよりわかりやすく自社の魅力を発信することが効果的です。
ホワイトペーパー
ホワイトペーパーとは、読者に対して有益な情報を提供する資料のことです。ホワイトペーパーをダウンロードするために個人情報を入力してもらう仕組みを作り、リード獲得へとつなげることが目的です。
また、リード獲得後はリードに対してナーチャリング(育成)を行うことで、ユーザーの購買意欲を高め、受注率・成約率をアップさせることができます。
直ちに受注につながりそうな見込み顧客だけではなく、数ヵ月後、1年後に成約に結びつく可能性のある顧客にもアプローチできる手法です。
メールマガジン
メールマガジンは、企業の担当者から購読希望者に対して一斉送信される情報メールです。
顧客との関係を構築するとともに、自社製品の情報をわかりやすく解説することで自社のファンを増やす効果があります。
メールマガジンによるコンテンツマーケティングでは、すでにメールアドレスなどの顧客情報を入手した顧客に対して施策を行うため、一般的なSEO対策は重要ではありません。自社のオウンドメディアやコラムで制作したWEB記事をメールマガジンによって紹介する手法もありますが、上位表示などの観点ではなく、あくまで顧客の購買意欲を掻き立てるようなコンテンツが求められます。
このように、メールマガジンでは購読者や過去の顧客リストがどのような記事・コンテンツを求めているかが成約獲得のための大きなポイントです。
導入事例
導入事例とは、自社の製品やサービスを実際に購入し、成果をあげた顧客を紹介する記事です。顧客に対して購入後の効果や導入の決め手を取材し、ストーリー性をもった記事にまとめ上げます。
製造業のようにBtoBが主流となる分野では、導入事例は非常に大きな効果が期待できるコンテンツです。BtoBでは、単価が高く購買の意思決定者が複数存在するなど、成約までのプロセスが複雑になります。
したがって、購買後の失敗に対するリスクを懸念する顧客も多く、導入事例はより信頼性の高いコンテンツとして扱われます。 また、WEB記事としての独自性が高いことも大きなメリットです。
製造業がコンテンツマーケティングを始めるための6ステップ
ここからは、実際に製造業企業がコンテンツマーケティングを始める際の手順をステップごとに分けて解説します。
STEP①:目的を明確化する
コンテンツマーケティングを導入するうえで最も重要な第一歩が目的の明確化です。
特に、製造業ではWEB施策に対して苦手意識を持っている企業が多く、前提となる目的や目標がブレてしまうとコンテンツマーケティングを継続することは非常に困難になります。
コンテンツマーケティングを導入することで実現したい自社の未来を「具体的に」想像することが重要です。
STEP②:ペルソナの設定
ペルソナとは、自社製品・サービスの購入対象となるユーザー像のことです。コンテンツマーケティングでは、どのようなペルソナに向けて情報を発信するのかによって、コンテンツの種類や内容も大きく変わります。製造業では多くの企業がBtoBの形態をとっており、購入の意思決定は複数ユーザーによって行われます。購入にいたるまでのプロセスがより複雑になるため、一般的なBtoCとは考え方が異なることを踏まえて、より多角的な視点からペルソナを設定する必要があります。
STEP③:カスタマージャーニーマップの作成
カスタマージャーニーマップとは、ユーザーが自社の製品やサービスを認知してから購買にいたるまでの道筋のことで、直訳すると「顧客旅程図」という意味です。カスタマージャーニーマップを作成することで、プロセスごとに進捗状況や達成度が確認できるほか、顧客のステータスにあわせて適切なアプローチを行うことが可能です。見込み顧客の状況によって、心理的効果の高いコンテンツは異なります。より効果的なコンテンツを企画するためにも、見込み顧客の行動を可能な限り細分的にマップ化することが重要です。
STEP④:コンテンツの企画
カスタマージャーニーマップをもとに、効果が期待できるコンテンツを企画します。ここでは、可能な限り複数考案することが重要です。設定したKPI達成を視野に入れ、なおかつ実現可能なコンテンツを企画します。
また、自社だけではノウハウやリソースが不足している場合には、コンテンツ制作を外部へ委託することも効果的な選択肢です。コンテンツの企画が上手くいかなければ、どんなにコンテンツ制作にリソースを費やしたとしてもKPI達成やその後の成果にはつながりません。
STEP⑤:コンテンツの制作・公開
企画に沿ってWEB記事や動画など、実際にコンテンツ制作を行います。設定したKPI達成のための導線や、盛り込む情報を検討しつつ、コンテンツの制作・公開を継続していきます。
先述のとおり、製造業のコンテンツマーケティングでは、購買にいたるまでのプロセスが複雑であり、重要視されるのは、より専門的なコンテンツの提供です。外部委託などを適切に活用し、高品質なコンテンツ制作を継続することが成功の鍵をにぎっています。
STEP⑥:成果測定
制作・公開したコンテンツに対する成果測定を行います。設定したKPIに対して実装後はどのような状況になっているか、数値を用いて定量的に検証します。結果をもとにステップ初期段階に戻り、新たなコンテンツの企画など、改善に向けて施策を繰り返します。
製造業のコンテンツマーケティングにおける課題と注意点
ここでは、製造業企業がコンテンツマーケティングを実施する際の注意点について解説します。
専門性が高く、外注先の選定が難しい
BtoBが主流の製造業のマーケティングでは、求められるコンテンツ制作やSEO対策の専門性が高く、一般的なWEB制作会社やマーケティング支援会社では成果をあげることが難しいといえます。 そのため、自社の技術情報を正しく理解することができる、製造業専門のWEB制作会社が必要です。
アクセス数が増えるだけでは製品・サービスの成約率は上がらない
製造業では、購買担当者が製品・サービスを購入する際に「企業」として意思決定を行うため、成約にいたるまでのプロセスがより複雑になります。成約につなげるためには、経営層や技術・開発部門の担当者のニーズに応えることが重要です。
したがって、購買担当者向けの「価格」や「納期」といった一般的なアプローチでアクセスを増やすだけではなく、上流部門向けの専門的な技術情報など、優位性の高いコンテンツをつくり込む必要があります。
製造業のコンテンツマーケティング成功事例
ここからは、実際にコンテンツマーケティングを導入することで大きな成果をあげた事例をご紹介します。
株式会社キーエンス
株式会社キーエンスは、高度なセンシング技術や測定器・3Dプリンタなどを提供する日本の大手メーカーです。 製造業のなかでも、コンテンツマーケティングで成功をおさめている企業の代表格といえます。
複数のオウンドメディアを運営し、業界の専門家やエンジニアと連携することで専門性・信頼性に長けたコンテンツを制作しています。上位表示はもちろん、自社製品への関心を高めるコンテンツを多数揃え、購買へとつなげることに成功している事例です。
トヨタ自動車株式会社
もはや説明不要ともいえる、日本が世界に誇る大手自動車メーカーです。 すでに潤沢な販売網や知名度を有しているトヨタ自動車ですが、WEBを活用したコンテンツマーケティングでも着実な成果をあげています。
自動車技術や自社製品に関する専門性の高いコンテンツを提供する「TOYOTA GAZOO Racing」を運営。 また、YouTubeをはじめとする動画プラットフォームにて製品紹介やテクノロジー解説などを展開しています。 時代にマッチしたビデオマーケティングにも注力することで、ブランディングの維持・向上を実現することが主な目的です。
このように、ソーシャルメディアプラットフォームと連携することで、若年層のユーザーにもアプローチするなど、常に新たな顧客開拓を目指しています。
株式会社石井精工
株式会社石井精工は、ゴムやプラスチック向けの金型製造で知られる企業です。 従業員20名弱の中小企業ながら、卓越した精密加工技術によって業界でも一目置かれています。 また、近年では、クラウドファンディングにて自社開発製品「アロマピンズ」を公開し、大きな反響を呼ぶなど、自社技術が持つ新たな可能性に挑戦しています。
石井精工では、YouTubeによる自社技術の公開・解説といったコンテンツを業界でもいち早く展開してきました。 WEBコンテンツ一つとっても、写真や動画、音声などを駆使し、視覚的なアプローチを試みるなど、細部にわたり工夫が凝らされています。
製品の利点や効果をよりわかりやすく提示するとともに、社内の風景や情景をうまく盛り込み、ストーリー性を持った企業アピールを行っていることが特徴です。 若年層を中心に人材雇用面でも大きな成果をあげています。
製造業のコンテンツマーケティング成功のポイント
それでは、ここまでの事例を踏まえ、製造業におけるコンテンツマーケティング成功のポイントをいくつかご紹介します。
自社の強みを明確化する|顧客ニーズの調査・理解
コンテンツマーケティングでは、ユーザーがどのような情報を求めているかを理解し、そこに対するアンサーとして自社の強みを提供します。
「資材・購買担当者」や「設計・開発担当者」「経営層」など、さまざまなユーザーが想定されるため、どんな顧客ニーズに応えるコンテンツ制作なのか、明確に決定することが重要です。アピールするべき強みは「コスト」や「納期」、「技術力」など立場によって変化するため、あらゆる角度から最適なアピールポイントを定める必要があります。
社内理解の向上と部門間の連携強化
優秀な担当者がいるだけでは、マーケティングで成功をおさめることは困難です。設計・開発をはじめとする各部門の連携があって初めて効果的なコンテンツマーケティングが生まれます。
特に、少数精鋭による中小製造業においては、コンテンツマーケティング専任の担当者を用意すること自体が困難であり、他業務と兼任で取り組まざるを得ないのが現実です。こうした状況では、製造現場などから不満の声があがることも多く、コンテンツマーケティングを導入する目的や必要性を共有することで社内理解を深めることが大切といえます。企業全体でコンテンツマーケティングに取り組む姿勢が重要です。
コンテンツ制作の中長期的な継続
コンテンツマーケティングにおいて最も重要なのは、コンテンツ制作の「継続」です。中長期にわたりコンテンツの投入を続けなければ成果は生まれません。
しかし、BtoB製造業のように専門性の高い分野では、WEB記事をはじめとするコンテンツ制作の継続は非常にハードルが高い取り組みといえます。技術系企業では、多くの技術的知見を持った人材であっても、それを伝えるためのコンテンツ制作力を持ち合わせていない場合がほとんどです。自社の強みや技術を正確にコンテンツ化することや、それを継続的に実行することは非常に難しいといえます。
リソース確保のための対策を講じるとともに、根気強くコンテンツ制作を継続していくことが大切です。なお、コンテンツ制作を外注化することも有効な手段ですが、一般的なWEB制作会社では、製造業がもつ専門性の高い自社技術を正しく理解するのは困難といえます。したがって、外注先を選定する際には製造業専門のコンテンツマーケティング支援会社に依頼することが重要です。
まとめ|製造業がコンテンツマーケティングを始めるためには
今回は、製造業のコンテンツマーケティングの始め方を6つのステップに分けて解説しました。 製造業では、WEBに関して苦手意識を持つ企業も多く、「コンテンツマーケティング」という言葉に対して前向きな印象ばかりではありません。
しかし、それは同時にコンテンツマーケティングを上手く導入できれば製造業企業として抜きん出た存在になれることを意味しています。
古くから日本はものづくり大国と呼ばれ、「良いものを作れば売れる」という時代が続いてきました。しかし、近年ではコロナ禍の影響もあり、顧客がWEBから情報を得ることはもちろん、対面での商談の場も大きく減少した時期もありました。
開発に没頭するだけで製品が売れる時代は終わり、これからは自社の強みや専門技術をコンテンツとして積極的に開示していく必要があります。
製造業のコンテンツマーケティングでは、一般的なSEO対策や小手先のテクニックでは成果につながりにくいため、WEB施策の経験が浅い企業でも十分に参入可能です。
「顧客が抱える課題」や「自社の強み」と真摯に向き合うことで、ユーザーにとって有益なコンテンツを制作することが大切といえます。
なお、高品質なコンテンツ制作を継続するためには、プロのアウトソーシングに頼ることも有効な選択肢です。製造業専門のコンテンツマーケティング支援会社に制作を依頼することで、自社技術をより効果的にアピールし、問い合わせや受注の獲得につなげることができます。
コンテンツマーケティングの導入に関してお悩みを抱えている担当者の方は、本記事の内容を参考のうえ、ぜひ検討してみてください。