BtoBをメインとする製造業のWEBマーケティングのステップの一つにカスタマージャーニーマップが挙げられます。
製造業担当者がWEBマーケティングをする際に、漠然と記事を作って発信すれば、問い合わせが来る、という印象を持たられるかもしれませんが、顧客の状況に合わせて適切なコンテンツ発信をしていく必要があります。
こうした背景から、顧客との関係を整理し、社内で共通認識を持つためにカスタマージャーニーが必要とされています。
カスタマージャーニーとは?
カスタマージャーニーとは、顧客がサービスや製品の検討から購入に至るまでの一連のプロセスを可視化したものです。
単なる流れを描くだけではなく、各段階で顧客がどのような行動を取り、どのような心理状態にあるのかを整理し、さらに企業側の提供価値や接点を結び付けることで全体像を明確にします。
目的・作る意義
カスタマージャーニーを作る目的は、まず社内で顧客理解を共有し、部署横断で同じ顧客像を描くことにあります。次に、マーケティング施策を設計するうえで、どの段階にどのような打ち手をすべきかを明確にできます。
営業やマーケティングの現場が直感や経験に頼るのではなく、共通のフレームワークに基づいて戦略的に顧客理解を深められるようになります。
顧客体験を最適化し、接点(タッチポイント)ごとに適切な情報や対応を検討することができるようになります。
カスタマージャーニーをどう活用するか
カスタマージャーニーマップは、言葉が一人歩きする側面もあり、作ること自体が目的になってしまい、活用まで考えられないケースもあります。
そうならないために、何のためにカスタマージャーニーを作るのか、どう活用するのか、を事前に確認しておきます。
コンテンツ制作への活用
記事やコンテンツの切り口を整理し、事例記事、製品紹介、技術解説など、顧客の購買段階に応じた情報を発信できます。
カスタマージャーニーを考慮しない場合、例えば、知識系の記事をたくさん作って、アクセスはうまく伸びているのに成果につながらない…といったことが起こります。
どういった検討フェーズの顧客に、どういったアクションを起こして欲しいのか?を逆算してコンテンツを検討できるようになるのが、大きなメリットの一つです。
営業活動との連動
展示会や営業資料においても、どのフェーズに対応している施策なのかを明示することで、営業活動の一貫性を高められます。
特に、複数部署でマーケティングや営業活動を行う場合、訴求内容の一貫性を高め、効率を高めることが期待できます。
BtoBとBtoCのカスタマージャーニーの違い
BtoBとBtoCでは、検討プロセスに違いがあります。一般的なカスタマージャーニーは一般消費者(BtoC)向けで紹介されていることが多く、BtoB向けとの違いに注意が必要です。
BtoBの場合
BtoBの購買プロセスは複数の意思決定者が関わるため、長期にわたることが多くなります。衝動的な購入よりも、しっかりと比較・検討できるようにフェーズごとで丁寧なアプローチが必要になります。
BtoCの場合
一方でBtoCは購買が短期的で、感情的な要素が大きく影響します。意思決定者は個人であり、直感や印象が購買行動に強く結びつきます。
製造業で特に重要な点
そのため、戦略を設計する際には時間軸が長いことを前提に、各段階で必要となる情報提供や信頼構築のプロセスを計画的に組み込むことが重要です。
具体的には、認知段階ではどのような媒体にどのような情報をだすのか検討したり、信頼関係を深めるフェーズでは、営業担当者のデモンストレーションや見積もりの迅速な提示など、が挙げられます。
カスタマージャーニーで考慮すべき項目
フェーズ(Stage)
購買段階は「認知 → 興味・関心 → 情報収集 → 社内検討・合意形成 → 比較検討 → 導入 → 継続・リピート」といった流れで整理できます。BtoBでは特に、情報収集や社内での合意形成といったステップが加わることが大きな特徴です。
行動(Action)
各段階において顧客は、検索、展示会への参加、資料請求、問い合わせ、他社事例の調査、社内会議での検討など、具体的な行動を取ります。
思考・感情(Thoughts & Feelings)
顧客は購買プロセスを通じて、不安から安心、そして信頼へと心理的に変化していきます。「自社に合うか」「費用対効果はあるか」といった心理的背景も重要な要素であり、BtoBでは社内の説得やリスク回避といった観点も強く影響します。
タッチポイント(Touchpoints)
企業と顧客の接点には、自社ウェブサイト、展示会ブース、営業担当者との面談、業界メディアの記事、ウェビナーや技術セミナー、ホワイトペーパーのダウンロードなどが含まれます。
課題・ニーズ(Pain Points / Needs)
顧客が抱える課題としては、技術的仕様や価格、納期といった情報不足があります。また、信頼できる実績を知りたい、導入後のサポート体制を明確にしたい、投資対効果を判断したいというニーズも強く存在します。
カスタマージャーニーの検討フェーズ
以下では、BtoBにおける購買プロセスを段階ごとに整理し、概要を解説します。実際には表形式で整理するとさらに理解しやすくなります。
認知(Awareness)
顧客がまだ自分の課題に気づいていない、または漠然とした関心を持ち始める段階です。Web検索や展示会、広告などを通じて情報に触れます。企業はコラムやホワイトペーパーを通じて課題認識を促します。
興味・関心(Interest)
課題を認識し、解決策に興味を持ち始めます。解決策の種類や事例を調べたり、メルマガを購読したりします。企業は成功事例や効果を示し、顧客の学びをサポートします。
検討(Consideration)
複数の解決策を比較している段階です。ベンダー比較やデモ、資料請求が行われます。顧客は「失敗したくない」という思いを持ち、社内を説得する根拠を探します。企業は比較表や導入事例を提供し、費用対効果を提示します。
比較・評価(Evaluation)
候補を絞り込み、社内で合意形成を進める段階です。価格交渉や条件確認、稟議や役員提案が行われます。顧客は「どのベンダーが安心か」を重視します。企業はリスクヘッジ情報やサポート体制を示し、契約条件を明確にします。
購入(Purchase / Decision)
最終的に購入・契約を決定する段階です。契約や導入準備、社内展開プランニングが行われます。不安と期待が入り混じる段階であり、企業はスムーズな契約支援やオンボーディング、初期トレーニングを提供します。
継続利用・ロイヤルティ(Retention / Loyalty)
導入後の利用段階であり、顧客満足と成果が問われます。利用継続やアップセル・クロスセル、推薦行動につながります。企業はカスタマーサクセスやサポート、成果報告や改善提案を行い、長期的な信頼関係を築きます。
ここまでのフェーズと、それぞれのフェーズで検討すべき内容を表で整理してみるとこのような形になります。
フェーズ | 状態 | 行動 | 思考・感情 | 企業の役割 |
---|---|---|---|---|
認知(Awareness) | 課題に気づいていない/漠然とした関心 | Web検索、展示会、SNS、広告接触 | 「何か課題がありそう」「解決策があるかも」 | 問題提起、業界トレンド記事、ホワイトペーパー、セミナーで啓発 |
興味・関心(Interest) | 課題を認識し、解決策を調査 | 事例・ノウハウ記事閲覧、メルマガ登録 | 「この方法が役立つかも」「もっと知りたい」 | 成功事例、導入効果、教育的コンテンツ提供 |
検討(Consideration) | 解決策を複数比較 | ベンダー比較、資料請求、デモ依頼、RFP作成 | 「失敗したくない」「社内を説得できる根拠が欲しい」 | 比較表、ROI試算、導入事例、デモ、PoC |
比較・評価(Evaluation) | 候補を絞り込み社内合意を形成 | 価格交渉、条件確認、稟議資料作成 | 「どのベンダーが安心か」「リスクを避けたい」 | 契約条件の提示、リスクヘッジ情報、サポート体制明示 |
購入(Purchase / Decision) | 最終的に購入・契約を決定 | 契約、導入準備、オンボーディング | 「これで正しかったのか?」不安と期待 | 契約・導入支援、初期トレーニング、スムーズなオンボーディング |
継続利用・ロイヤルティ(Retention / Loyalty) | 導入後の利用・成果確認 | 継続利用、追加導入、他社への推薦 | 「成果は出ているか」「長期的に付き合えるか」 | カスタマーサクセス、サポート、改善提案、ユーザー会開催 |
カスタマージャーニーの作り方手順
ペルソナを設定する
ペルソナとは、具体的に想定顧客を決めて、誰が担当者なのか?どのような課題を持っているのか?を決めて、顧客像を作っていきます。
フェーズを定義する
認知から検討、導入、継続という一連のフェーズを明確にします。一般消費者向けでは、AIDMAやAISASなどのフォーマットがありますが、BtoB向けの場合には、また別のフェーズ定義が必要になります。
顧客行動・心理を洗い出す
各フェーズごとに、顧客がどのような行動を取り、どのような心理状態にあるかを整理します。
タッチポイント・課題を対応付ける
段階ごとに、顧客との接点や解決すべき課題・ニーズを明確にします。
提供できるコンテンツを割り当てる
導入事例、FAQ、技術コラム、セミナーなど、具体的なコンテンツをフェーズごとに対応させます。
部署をまたいで合意形成
最後に、マーケティング、営業、経営層が共通認識を持つことで、全社的に一貫した施策を展開できます。
カスタマージャーニーのテンプレート(フォーマット)
具体的にこれらの項目に当てはめたカスタマージャーニーのサンプル(記入例)と、テンプレート(フォーマット)をダウンロードいただけます。

こちらのフォーマットより、ダウンロードください。
まとめ
製造業におけるカスタマージャーニーは、顧客理解を共有し、施策を一貫性のあるものにするための必須ツールです。
中小企業であっても、まずはシンプルな形から始めることで十分に効果を得られます。本記事で提供しているテンプレートを活用して、ぜひカスタマージャーニーを作成してみてください。